概要:金価格の急騰が、プロップトレーディング業界の構造的な脆弱さを浮き彫りにしている。実際、一部のファームではゴールド取引そのものを制限・禁止する動きも出始めた。業界内部からは、持続性を欠くビジネスモデルへの厳しい指摘が相次いでいる。

「多くのプロップファームが、金の取引すら認めなくなっている」――こう語るのは、ドバイを拠点とするプロップファーム「Rhodium FX」の共同創業者兼CEO、フィリップ・ファン・デン・バーグ氏だ。彼はポッドキャスト「Thentick」に出演し、業界全体に静かに広がる構造的な危機について率直に語った。
なぜ金の取引が問題になるのか。その答えは、プロップファームのビジネスモデルそのものにある。
プロップファームは、トレーダーに「チャレンジ」と呼ばれる評価テストを課し、その参加費を主要収入源としている。このモデルは、大多数のトレーダーが資金提供に至る前の段階で脱落することを前提に成り立っている。ところが、金相場が史上最高値圏で推移するなか、これまで安定して勝てなかった個人トレーダーでも、明確なトレンドに乗ることで利益を出しやすくなった。
こうした「想定外」の展開が、ファームの収益構造を直撃している。チャレンジ参加費を主な収益源としてきた多くのファームが、相次ぐペイアウト請求に耐えきれなくなっているという。実際、easyMarketsの調査によると、金の取引量は昨年第4四半期に前年比240%増を記録した。こうした数字からも、問題の深刻さがうかがえる。
フィリップ氏が指摘するのは、ゴールドの問題だけではない。業界全体の急速な膨張が、質よりも量の競争を生み出しているという。「毎週2〜5社ものプロップファームが新たに参入している」と彼は語る。
しかし、参入企業の多くはサービス内容がほぼ同一で、価格競争に終始し、継続的なペイアウトに耐えうる運営基盤を欠いている。チャレンジ参加費で急成長を遂げた後、資金提供を受けたトレーダーへの支払い義務が一気に発生し、対応できなくなるファームが相次いでいる。「オーナーが短期間で利益を確保した後、サービスごと突然閉鎖する事例が増えている」と彼は指摘する。いわゆる「ラグプル(rug pull、資金を回収して突然姿を消す行為)」を想起させるケースも出ている。
近年急増している「インスタント・ファンディング」モデルについて、フィリップ氏は一歩も引かなかった。このモデルは、評価テストなしですぐに資金提供を受けられるとうたう一方、実際には極めて厳しい取引条件が課されており、最初のペイアウトに到達するのがほぼ不可能に近い構造だという。
「人々の欲に働きかけるだけのスキームだ。すぐに資金が手に入ると思い込むが、最初のペイアウトにたどり着くルールがどれほど厳しいか、気づいていない」と彼は語った。Rhodium FXはこのモデルを採用せず、その分、成長スピードは緩やかだが、2段階評価と一貫したルールで長期的な顧客基盤の構築を目指している。
トレーダーがファームを選ぶ際に頼る比較サイトやレビュープラットフォームについても、フィリップ氏は問題を指摘した。ランキングの上位はファームの信頼性や支払い実績ではなく、マーケティング予算の大きさで決まる、と彼は言い切る。「結局は、財布の中身が多い会社が勝つ」という構図だ。
高評価を得ていたファームが、後になってペイアウトを拒否したり、レビュー操作が発覚したりするケースは、この業界で繰り返されてきた。この情報の非対称性が、経験豊富なトレーダーさえも正確な判断を難しくしている。
規制については、フィリップ氏は業界内の「すぐに規制が来る」という声とは一線を画した見方をする。当局はプロップファームの業態をまだ十分に理解していないため、当面は大きな動きは見込みにくいという。しかし「ラグプルや不透明な資金運用が続けば、規制対応の加速につながる」と警告した。
彼はESMA(欧州証券市場監督機構)のレバレッジ規制を引き合いに出し、規制が業界全体の協力なしに行われた場合、顧客が規制の緩い市場へ流出するだけで、十分な保護につながらないリスクを指摘した。米国市場については、Rhodium FXは意図的に参入を見送っている。ドッド=フランク法など米国の金融規制の厳しさを踏まえ、「米国当局に目をつけられれば、本気で追ってくる」と述べ、米国顧客を静かに受け入れているファームへのリスクを強調した。
フィリップ氏はBlackBull Marketsで経歴をスタートし、その後はDominion MarketsでCOOを務め、運営の中核を担った。現場を知る者として、業界の内実と、多くの個人トレーダーが実際に何を必要としているかを肌で感じてきた。
Rhodium FXはドバイを拠点に、チャレンジ参加費に依存しない収益モデルの構築も視野に入れている。成功したトレーダーの取引から直接収益を得られる流動性インフラとの連携も探っているという。


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