概要:7日朝に電話が鳴った時、みずほ銀行の経済・戦略責任者、ビシュヌ・バラサン氏はシンガポールのアジアスクエアにある自社オフィスビルの7階にいた。円が急騰しており、顧客は今後どうなるかをすぐに知りたがっていた。
流動性ギャップにぶつかったとFPマーケッツのトウィデール氏
円トレーダーはシビアな状況になっている-ソニーフィナンシャル
対ドルでほぼ1年ぶりの上昇率につながった円買いの火種はアジア時間にあった。日本銀行の植田和男総裁と副総裁の1人の発言を、トレーダーらは近い将来のマイナス金利政策解除を示唆するものだと受け取った。
30年国債入札の不調が火に油を注いだ。トレーダーが円のショートポジションを解消するのにそれ以上の後押しは必要なく、円は7日のニューヨーク市場で一時4%近くも急騰した。
7日から8日にかけたドル・円急落時にまだ起きていたというトレイダーズ証券の井口喜雄市場部長は、「対応できるようにするためのリスク管理でかなり緊張感が高い状況だった。スピード感でどこまでいくかわからなかったため震えながらやるしかなく、本当に怖かった」と語った。
流動性の薄さ、コンピューターアルゴリズム、円ショートポジションの急激なカバーによって増幅された混乱状態の取引の中で、一部の投資家は傍観を余儀なくされた。円ウオッチャーは8日に発表される米雇用統計が次のきっかけになる可能性が高いとみている。
スクリーンにくぎ付け
FPマーケッツのアジア太平洋最高経営責任者(CEO)、ニック・トウィデール氏も、さらなる変動に備える投資家の一人だ。相場が展開する間、同氏はシドニーのブリッジ・ストリートにあるオフィスでパソコンの画面にくぎ付けになっていた。同社のトレーダーらは、欧州の動きを注視して7日夜遅くまでオフィスに詰めていた。その時、円が一段と上昇し多くの投資家がパニック的な買いに加わった。
「このような相場の動きで取引するのはあまりにトリッキーで、流動性ギャップにぶつかった」と、市場歴26年のベテランの同氏は語った。「デスクにいれば、注文を埋めるだけだ。1日に4%もの値動きがあると、双方向の価格を出すのはとても難しい」と話した。
ドル・円相場は7日のアジア市場で147円台前半で取引を開始した後、ニューヨーク市場で141円71銭まで急落した。円はその後上げ幅を縮めたが、アジア時間8日に再び上げ、一時1.1%高となり142円台を付けた。東京時間午後4時22分は1ドル=144円35銭。
オプショントレーダーらは、ジェットコースターのような展開に投資家は「混乱し確信が持てない」状態になっていると話した。
ヘッジファンド、K2アセット・マネジメントの調査責任者、ジョージ・ブーブラス氏のように、マーケットの動きを遠くから見守ることを選ぶ市場関係者もいる。
投資歴30年のベテランの同氏は「私は傍観することにした。市場は日銀の政策転換という大きなテーマについて、1カ月ではなく1日で取引してしまった。同じような動きは恐らくまだ何回もあるだろう」と述べた。
「異常な値動き」
市場に残っている人たちは、8日にあと2回の荒い取引のリスクを覚悟している。
「実際にトレードしている市場参加者は昨日からかなりシビアな状況になっている」と語るのは、ソニーフィナンシャルグループの森本淳太郎シニアアナリストだ。「今晩の米雇用統計で為替相場が大きく振れる可能性があり、欧州時間から米国時間にかけて自宅から対応する」とも述べた。
キャピタル・ドット・コムのアナリスト、カイル・ロッダ氏は、8日午前6時にメルボルンで目覚めた時、携帯電話をチェックするやいなや、今日も忙しい一日になることを悟った。
「これらは異常な値動きだが、同時に市場が転換点にある可能性も示している。これは確実に、日銀が利上げをし米国とのスプレッドが縮小することを市場が織り込むというトレンドの始まりだ」と述べた。
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