概要:7兆8000億ドル(約1130兆円)に上る米国の上場投資信託(ETF)市場が新たな秩序に向かって疾走している。業界第2位のバンガード・グループがこれまで独占的な地位にあったブラックロックに肉薄してきた。
2023年12月14日 1:48 JST
手数料に敏感な金融アドバイザー・個人投資家の間で絶大な人気
ブラックロックの債券・ビットコインETFが波乱要因に-BI
7兆8000億ドル(約1130兆円)に上る米国の上場投資信託(ETF)市場が新たな秩序に向かって疾走している。業界第2位のバンガード・グループがこれまで独占的な地位にあったブラックロックに肉薄してきた。
ETF市場におけるブラックロックのシェアは2006年の約60%をピークに、2001年以来の水準となる32.5%まで低下した。ブルームバーグのデータによると、ブラックロックのシェアは依然として業界トップだが、21年連続でシェアを伸ばし続けてきたバンガードが29.5%まで拡大し、その差を縮めている。
ETF US Market Share
Source: Bloomberg Intelligence
2023 figure as of Dec. 11.
2002年以来、途切れることのない成長を続けるバンガード。その秘訣(ひけつ)は独自の企業構造にある。ファンド投資家が取締役を選出する仕組みとなっており、バンガードの取締役は通常、商品から生み出される余剰資金や資産を手数料引き下げに振り向ける。そのためバンガードはパッシブ中心のETFラインアップ全般において、手数料を最小限に抑えることを実現。年間多額の投資マネーを呼び込み、業界の手数料引き下げ競争に拍車をかけてきた。その結果、バンガードは手数料に敏感な金融アドバイザーや個人投資家を中心に多大な人気を博している。
リサーチ会社ETFGIの共同創業者、デボラ・フール氏は「バンガードは金融アドバイザーの間で絶大な支持を得ており、これは極めてまれだ。その資金はとどまる傾向が非常に強い」と指摘。「コストを手当てするためにファンドを運用しているのであって、もうけるためにファンドを運用しているのではないというバンガードの理念を人々は気に入っている。バンガードは常に投資家の視点に立っている」と述べた。
これは2003年以来、最大のETF発行元として君臨してきたブラックロックの顧客層とは異なる。ブルームバーグのデータによると、ブラックロックは400余りのETF(その大半がiシェアーズ商品)で約2兆5000億ドルの資産を運用する。これに対し、バンガードが手がけるETF商品はわずか83だ。ブラックロックの多彩なETFラインアップは、流動性の高さと取引のしやすさから、機関投資家やプロの資産運用担当者に人気がある。
バンガードには年初から12月初旬までに約1370億ドルが流入しており、4年連続でETFの流入額トップに立つ勢いだ。ブラックロックには同期間に約800億ドルを獲得しており、4年連続で第2位にとどまる見通し。
途切れることのないバンガードの躍進を踏まえると、同社がいずれETF市場で首位の座を占めるのは不可避のようにみえる。モーニングスターの顧客ソリューション責任者、ベン・ジョンソン氏は、ETF運用資産で両社の間にある2000億-3000億ドルの溝が埋まるのは2024年以降になりそうだと予想。ブルームバーグ・エコノミクス(BE)のETFアナリスト、アタナシオス・プサロファギス氏は、バンガードが来年ブラックロックを追い抜く可能性はあるが、波乱要因が少なくとも2つあると指摘する。
「ブラックロックは、債券とビットコインの2つで時間を稼ぐことができる」と話す同氏。「ブラックロックは債券でなお約40%のシェアを握っているのに対し、バンガードは約25%で、かつブラックロックは豊富なラインアップをそろえている。また、ビットコイン現物ETFが承認されれば、ブラックロックはかなりの額、おそらく数十億ドルを取り込めるだろう。これはバンガードが間違いなく手を出さない分野だ」と説明した。
バンガードの広報担当者は、暗号資産(仮想通貨)商品を提供する意図は「全くない」としている。
また「当社は誰がETFリーグテーブルの首位に立つかに重点を置いているわけではない」とし、「むしろ、顧客が投資で成功を収めるための投資とアドバイスを提供することに注力している」とコメントした。