概要:米金融当局は13日、過去数十年ぶりの急ピッチで進めた利上げを反転する方向にかじを切った。当局のインフレ抑制策はこれまで、リセッション(景気後退)や雇用情勢の深刻な悪化を招くことなく進展を遂げてきた。
コンテンツにスキップする
2023年12月14日 13:15 JST
今回のFOMC会合で利下げを議論したとパウエルFRB議長
当局者の予想中央値では来年計3回の利下げが見込まれている
米金融当局は13日、過去数十年ぶりの急ピッチで進めた利上げを反転する方向にかじを切った。当局のインフレ抑制策はこれまで、リセッション(景気後退)や雇用情勢の深刻な悪化を招くことなく進展を遂げてきた。
パウエル連邦準備制度理事会(FRB)議長は同日、物価上昇圧力が再燃した場合、当局として利上げを再開する用意を表明。それでも、議長を含む当局者による最新の四半期経済予測では2024年に複数回の利下げが想定されていることが示された。
関連記事:
FOMC、3会合連続で金利据え置き-24年に複数回利下げを予想
パウエル議長、準備預金減少の可能性認識-RRP利用減で将来的に
FRBがインフレ退治で最後の1マイル突入、恐れていた「痛み」なく
連邦公開市場委員会(FOMC)は同日までの2日間の会合で、政策金利を22年ぶりの高水準に3回連続で据え置くことを決めたが、議長は会合後の記者会見で、利下げが議論されたことを明らかにした。
パウエル議長が会見で、投資家の間に広がる24年の利下げ観測を押し返そうとしなかったことで債券相場は上昇し、ダウ工業株30種平均は過去最高値を更新した。
今月1日の時点で利下げ時期を臆測するには「時期尚早」としていた議長だが、会見では「それが視野に入り始めており、話題になっているのは明白だ。今回の会合でも議論した」と述べ、当局者が検討を始めたことを認めた。
当局はフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標レンジを5.25-5.5%に据え置くことを全員一致で決めた。他方、最新の四半期経済予測によれば、FOMC参加者が見込む追加利上げは予想中央値で21年3月以来のゼロとなった。
また、来年の利下げ幅の予想中央値は計0.75ポイントと、9月の前回予測の0.5ポイントから拡大した。なお、24年末時点のFF金利は中央値で4.6%と予想されているものの、個々の当局者の見通しには大きなばらつきがある。
LHマイヤー/マネタリー・ポリシー・アナリティクスのエコノミスト、デレク・タン氏はパウエル議長の会見について、利上げ完了のトーンがあったのは確かだと指摘。早期に従来想定よりも大幅な利下げがあるとの市場の臆測に対し、議長らFOMC参加者全員が金利予測分布図(ドット・プロット)を使って押し返す必要性を感じていなかった様子だと分析した。
このほか、シティグループのエコノミスト、ベロニカ・クラーク氏はFOMC声明とパウエル議長に関し、「声明にはテクニカルには利上げバイアスがあり、議長もまだそのように話しているが、誰も信じていない」とし、「次のステップが利下げであることは誰もが分かっており、議長もそれを確認した」と話した。
FF金利先物市場でトレーダーが織り込む来年の利下げ回数は現時点で計6回と、今週の早い時点の4回から増え、トレーダーは3月のFOMC会合での利下げの可能性を100%織り込んでいる。
パウエル議長は過去数カ月にわたり、インフレ抑制を実質的に自身唯一の責務に位置づけ、物価高対策には「多少の痛み」を伴うと警告してきた。現状を見ると、経済のソフトランディング(軟着陸)が保証されたにはほど遠いものの、労働者にとっておおむね痛みのない形でインフレ鈍化が進んでいる。
議長は「これまでに進展が見られたのは非常に良いことだ」とした上で、「さらなる進展が必要だ」と語った。
ブルームバーグ・エコノミクス(BE)の米国担当チーフエコノミスト、アナ・ウォン氏らは「市場が織り込む利下げについて、FOMCは意外なほど是認する意向を示した。最新の四半期経済予測は軟着陸シナリオの全面的な受け入れを反映している」との見解を示した。
パウエル議長は今回、物価安定と最大限の雇用の実現という二つの責務を巡り、リスクバランスの均衡を図る必要性に一段と明確に言及した。具体的には、金利を過度の高水準に維持することに関し、「あまりにも長く踏みとどまることのリスクを認識しいている」とし、「われわれはそれがリスクであることを分かっており、そうしたミスを犯さぬよう非常に集中的に取り組んでいる」と発言した。
KPMGのチーフエコノミスト、ダイアン・スウォンク氏はブルームバーグテレビジョンとのインタビューで、「インフレ鈍化の事実に当局者がエキサイトしているのは間違いない」とコメントした。