概要:パウエル連邦準備制度理事会(FRB)議長ら米金融当局者は、リセッション(景気後退)回避と過度なインフレ抑制の両立は可能だと考えている。筆者もそれがうまくいくことを願っている。しかし残念ながら、そうはならない可能性もなお非常に大きい。
パウエル連邦準備制度理事会(FRB)議長ら米金融当局者は、リセッション(景気後退)回避と過度なインフレ抑制の両立は可能だと考えている。筆者もそれがうまくいくことを願っている。しかし残念ながら、そうはならない可能性もなお非常に大きい。
パウエル氏は先週、金利見通しについて極めてハト派的な発言をして市場を驚かせた。追加利上げの可能性を実質的に排除する一方、利下げの見通しをこれまでで最も明確に示した。これは大きな変化だ。わずか2週間前には、利下げの議論は「時期尚早」としていた。「より高くより長く」はもはやゴミ箱送りとなった。複数の当局者らは今や、より早期かつより急速な利下げを可能にする、必要にさえするであろうインフレ率のさらなる低下を見込んでいる。
12月の連邦公開市場委員会(FOMC)会合で出された最新の四半期経済予測では、中央値で2024年に0.25ポイントずつの利下げを3回行うとの見方が示された。
米金融当局は、成長鈍化や失業率上昇、インフレ率低下など、経済が予測通りになった場合はさらなる利下げを行う理由があるだろう。まず、当局者はインフレ率が2%目標への持続的軌道にあるとの自信を深めそうだ。またインフレ率の低下はインフレ調整後の実質金利をおのずと景気抑制的にするため、同じ金融政策スタンスを維持するためには利下げが必要になる。インフレが落ち着けば、米金融当局はもう一つの責務である雇用最大化により重点を置くことができる。
こうした金融政策の方向転換により、リセッションとハードランディングのリスクは大幅に低下する。主に金融市場への影響を通じてだ。フェデラルファンド(FF)金利先物市場では、すでに来年に計150ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)の利下げが織り込まれている。10月末以降、米10年債利回りは約90bp低下し、株式相場は10%余り上昇。信用スプレッドは縮小し、ドルは軟化した。ゴールドマン・サックス・グループの金融環境指数(FCI)は100bp余り低下した。
問題は、FRBのハト派的な姿勢がノーランディングの可能性も高めることだ。ノーランディグとなれば景気過熱とインフレ継続で引き締め政策の再開が余儀なくされ、一段と深刻なリセッションも招きかねない。そうなればFRBの信頼性は損なわれるだろう。
懸念すべき要因は少なくない。1年前がそうだったように、2023年末の成長鈍化は2024年には反転する可能性がある。消費支出が弱く見えるのは、単にデータの季節調整がうまくいっていないだけかもしれない。今年見られた労働市場での供給大幅増は来年にかけて続かないかもしれず、そうなれば雇用市場はかなり逼迫(ひっぱく)し、賃金インフレは非常に高い水準にとどまりかねない。財への需要拡大やサプライチェーンの混乱など、コロナ禍に伴う一過性の要因が解消された後、物価は再び加速する可能性もある。住宅を除くサービスのインフレは予想以上に根強いことが判明するかもしれない。パウエル議長がかつて指摘したように、物価2%目標達成の「最後の1マイル」は難しさが増すはずだ。
パウエル氏は、インフレ率を2%に戻し、それを持続させるという仕事を最後までやり遂げなければならないと繰り返し強調している。しかし、リセッションを回避するために利下げに重きを置けば置くほど、インフレ抑制に失敗し、市場が大きな不意打ちを受けるリスクは高まる。いずれにしても2024年は経済、FRB、金融市場にとって興味深い年になるに違いない。