概要:日本製鉄が米鉄鋼大手USスチールを買収する合意が成立したことで、バイデン米大統領は政治的ジレンマに追い込まれた。バイデン氏が再選を目指す上で製造業の中心地での勝利が鍵となるからだ。
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2023年12月20日 9:22 JST
大統領は取引を遅らせたり修正に動いたり阻止することさえあり得る
全米鉄鋼労組や激戦州選出議員が相次いで買収反対を表明
日本製鉄が米鉄鋼大手USスチールを買収する合意が成立したことで、バイデン米大統領は政治的ジレンマに追い込まれた。バイデン氏が再選を目指す上で製造業の中心地での勝利が鍵となるからだ。
ペンシルベニア州ピッツバーグに本社を構えるUSスチールは18日、市場予想を上回る総額141億ドル(約2兆円)での身売りで日本製鉄と合意したと発表した。
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USスチールは全盛期には米製造業の象徴的存在だった。大統領選を来年に控えた今の時期でなければ、友好国の企業からの好条件の提案は問題視されなかったかもしれない。
しかし政治的な意味合いからバイデン大統領はこの取引を遅らせたり修正に動いたりする可能性があり、阻止することさえあり得る。USスチールの身売りで打撃を受ける激戦州の民主党議員やバイデン氏の支持者らが早々と買収に反対を表明した。
ホワイトハウスのジャンピエール報道官は19日、バイデン大統領はこの取引を承知しており、規制・監督当局の審査対象となり得ることも分かっていると述べた。大統領は鉄鋼労働者を支持し、競争が重要だと考えていると同報道官は強調した。
ペンシルベニア州ミフリンのUSW支部で演説するバイデン大統領(2022年9月5日)
Photographer: Justin Merriman/Bloomberg
ブルームバーグ・ニュースとモーニング・コンサルトが共同で実施し、今月結果を公表した世論調査によると、バイデン氏は経済運営に関する評価で、製造業が盛んなペンシルベニア州やミシガン州など激戦州でトランプ前大統領にリードを許している。
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トランプ氏は長らく鉄鋼業界に政治・経済的に肩入れし、国内生産を支えるために関税を導入した。バイデン氏はそのアプローチを継承。鉄鋼関税を維持し、ブルーカラー労働者へのアピールでトランプ氏と肩を並べた。米製造業の立て直しも公約した。
米鉄鋼協会(AISI)のデータによると、米鉄鋼業界は2022年に8900万トンを生産。USスチールは約17%を占め、製鉄所は重要な激戦州の各地に存在する。鉄鋼労働者はまた、バイデン氏が20年大統領選勝利に大きく寄与したと認めるブルーカラー組合員の代名詞でもある。
全米鉄鋼労働組合(USW)は日本製鉄によるUSスチール買収に反対しており、この取引を「欲深く近視眼的 」と批判した。
議員も相次ぎ反対表明
第三党の候補として大統領選出馬を検討と臆測を呼ぶマンチン上院議員はこの取引に反対を表明。「米鉄鋼業を守り、米国民の好待遇の雇用が失われることを防ぐため、できることは何でも行う」と声明を出した。
ペンシルベニア州選出のケーシー、フェターマン民主党上院議員も懸念を表明した。フェターマン議員はこの買収を阻止するために全力を尽くすと投稿。オハイオ州選出のブラウン議員(民主)とJ・D・バンス議員(共和)、ミシガン州選出のスロットキン下院議員(民主)も反対の立場を示した。
オハイオ、ペンシルベニア、ミシガン各州の上院選は全米でも有数の白熱した選挙戦になる見込み。ペンシルベニア、ミシガン両州は16年の大統領選でトランプ氏が勝利した後、20年にバイデン氏が制しており、同氏にとって極めて重要な意味を持つ。USスチールは両州に事業拠点を持つ。