概要:29日の米国株式市場は下落。S&P500種株価指数が最高値に迫る中、年内最後の取引となったこの日は大きな材料もなく、上昇一服となった。
上下に大きく変動した米10年債利回り、年初とほぼ同水準で終了
ドル指数は2020年後では初めてのマイナス、対円では3年連続の上昇
29日の米国株式市場は下落。S&P500種株価指数が最高値に迫る中、年内最後の取引となったこの日は大きな材料もなく、上昇一服となった。
株式 | 終値 | 前営業日比 | 変化率 |
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S&P500種株価指数 | 4769.83 | -13.52 | -0.28% |
ダウ工業株30種平均 | 37689.54 | -20.56 | -0.05% |
ナスダック総合指数 | 15011.35 | -83.79 | -0.56% |
S&P500種は6営業日ぶりに下げた。だが、米金融政策を巡る不透明感に加え、リセッション(景気後退)や地政学的リスクといった懸念にもかかわらず、週間では9週連続のプラスと、2004年以来の長期上昇局面を記録した。
年初来では約24%の値上がり。ナスダック100指数は1999年以来の好調な一年となった。
LPLファイナンシャルのチーフ・グローバル・ストラテジスト、クインシー・クロスビー氏は「市場には疲労感が出ており、間違いなく値固めが必要だ」と指摘。「しかし地政学的・国内的なシナリオに加え、2024年も好調な年になるという前向きなコンセンサスを背景に、市場参加者の裾野が広い限りは強気なセンチメントが指数をけん引するはずだ」と述べた。
S&P500種株価指数
出所:ブルームバーグ
サマーズ元米財務長官は市場で米金融緩和への期待が急速に高まる中、投資家はインフレのリスクを恐らく過小評価しているとの見方を表明。
RBCグローバル・アセット・マネジメントも株式相場はあまりに急ピッチで上昇してきたため、米経済がリセッションに陥る場合はそれが緩やかなものであっても、下落する展開になりやすいと指摘した。
米国株式市場に不安が欠如していることは、恐怖指数として知られるシカゴ・オプション取引所(CBOE)のボラティリティー指数(VIX)にも表れている。
VIXは今週13を下回ったままで、これは新型コロナウイルス流行前の最低水準に近く、5年平均を大きく下回る。
AJベルの投資ディレクター、ラス・モールド氏はVIXが低水準にとどまっていることについて「投資家によるある種の油断か、高揚感すら示唆しているかもしれない」と語った。
パイパー・サンドラーのクレイグ・ジョンソン氏は「買われ過ぎの懸念はくすぶっている」と指摘。「しかし、時間とともに値固めが進めば、買われ過ぎの状態を緩和する一助となる。投資家は現状維持の姿勢で新年を迎える見通しで、下げは緩やかにとどまると予想する」と述べた。
10年債利回り
出所:ブルームバーグ
リセッション(景気後退)入りを予想する声が優勢な中で23年を迎えたが、労働市場の引き締まりに支えられ、景気は予想外の底堅さを見せた。その結果、米金融当局は7月の米連邦公開市場委員会(FOMC)会合まで利上げを継続し、相場のボラティリティーが増大。多くのストラテジストが不意を突かれた。それでもストラテジストの多くは幾分の変動はあっても景気はついに減速し、米利下げが始まると見込んでいる。
ブランディワイン・グローバル・インベストメント・マネジメントのポートフォリオマネジャー、ジャック・マッキンタイア氏は「期間長めの国債では今年、クーポンは稼げたが、ストレス調整後は損をしたように感じた」と指摘。「24年もまた不安定な年になるだろう」と述べた。
為替
ニューヨーク外国為替市場では、ドルが主要通貨に対してまちまち。ブルームバーグ・ドル・スポット指数は午前の下げから切り返し、ほぼ変わらずで終えた。
為替 | 直近値 | 前営業日比 | 変化率 |
---|---|---|---|
ブルームバーグ・ドル指数 | 1212.89 | 0.56 | 0.05% |
ドル/円 | ¥141.03 | -¥0.38 | -0.27% |
ユーロ/ドル | $1.1038 | -$0.0023 | -0.21% |
米東部時間 | 16時50分 |
ドル指数は年間では約2.7%下落。米利下げ観測を背景に、新型コロナウイルスが流行した2020年後では初めてのマイナス圏で終えた。
この日発表された12月のMNIシカゴ購買部協会景況指数は46.9に低下。市場予想は50、前月は55.8だった。
円は対ドルで上昇。一時は140円80銭まで買われた。直近では141円近辺で推移。年間では日米の金利差が意識される中、3年連続で下落した。
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原油
ニューヨーク原油相場は3日続落。年間では2020年以来の大きな下げとなった。戦争や、石油輸出国機構(OPEC)と非OPEC主要産油国で構成する「OPECプラス」による減産も、相場押し上げには至らなかった。OPECプラス外からの原油供給は拡大している。
ウェスト・テキサス・インターミディエート(WTI)原油先物は29日の取引で、1バレル=72ドルをやや下回る水準で引けた。年初水準を9ドル近く下回って2023年を終えたことになる。ブルームバーグ商品スポット指数は過去12カ月に約10%下げた。
23年の原油市場は波乱の1年となった。イスラエルとイスラム組織ハマスの戦争や、インフレが鈍化する中で米利上げが終了したとの観測に、価格が支えられる面もあった。ただ、OPECプラスが繰り返す減産をよそに、OPECプラス外産油国の増産に需要減速懸念が相まって、原油先物相場は押し下げられた。
コンサルティング会社エナジー・アスペクツの共同創業者で調査責任者のアムリタ・セン氏は「今年は多くのトレーダーや投機家が大打撃を被った。取引はたやすくはいかず、極めて不安定だった」と指摘。「持続的な在庫減少が必要だ。前日のエネルギー省のデータでは大きな在庫減少が示された。その傾向が今後も続けば、信頼感は戻るだろう」と分析した。
ニューヨーク商業取引所(NYMEX)のWTI先物2月限は前日比12セント(0.2%)安の1バレル=71.65ドルで終了。ロンドンICEの北海ブレント3月限は0.1%安の77.04ドル。
金
金スポット相場はほぼ変わらず。年間では約13%高となり、3年ぶりの上昇となった。米金融当局が2024年に景気抑制的な政策スタンスを緩和させ始めるとの見方が強まった。
金は通常、金利と逆相関の関係にあり、金利が低下するほど金は上昇する。今年は政策金利を巡る当局の行動に関し、市場の見方に変化が生じたことが価格動向に大きく影響した。
インフレが鈍化し労働市場の熱気が冷める中、金融当局が24年に政策を転換させて緩和に動くとの見方が、10月以降の市場で強まっている。リセッション(景気後退)リスクを巡る懸念は、債券保有の論拠を強めてもいる。成長押し上げのため世界の中央銀行が積極的に利下げに動かざるを得なくなると、トレーダーらはみている。そうした見方を背景に米国債利回りとドルが下げる中で、金は10月6日以降に13%近く上昇した。
金相場を押し上げた重要な要素の一つに、中銀による記録的な金買いがある。そうした積極的な購入により、米国債の実質利回りに対する金のプレミアムは歴史的に見て極めて大きくなっている。金はさらに、地政学的な不確実性といった要素にも支えられている。
金スポット価格はニューヨーク時間午後2時29分現在、前日比73セント(0.1%未満)下げて1オンス=2064.88ドル。ニューヨーク商品取引所(COMEX)の金先物2月限は11.70ドル(0.6%)安の2071.80ドルで終了した。