概要:ユーロ圏の労働市場の不思議な強さが、差し迫った利下げ観測を欧州中央銀行(ECB)が押し戻す根拠になっている。
2024年1月22日 21:47 JST
1-3月の賃金データが出るのは4月末-6月が最初の利下げ機会か
利下げする前に2024年の賃金に関する「データを見たい」-総裁
ユーロ圏の労働市場の不思議な強さが、差し迫った利下げ観測を欧州中央銀行(ECB)が押し戻す根拠になっている。
新型コロナウイルス流行後初の景気後退が予想される中、経済の教科書を覆して失業率は過去最低を記録した。それに伴う給与の上昇は、インフレ率が3%未満に急低下したにもかかわらず当局がインフレに終止符を打てていないことを意味する。
ラガルド総裁は先週のダボス会議で、賃金の伸びはECBの計画に「深刻な影響」を与える可能性があると述べた。他の多くのECB当局者と同様、ラガルド総裁は利下げの前に2024年の賃金に関する「データを見たい」と考えている。
しかし、この数字が出るのは春になってからであり、ECBが緩和を開始すると一部投資家が予想している時期よりも後になる。謎の雇用市場の底堅さが持続し、利下げをさらに遅らせる可能性もある。
「労働市場の逼迫(ひっぱく)は和らぐ方向に向かっているが、ドイツのような最も影響を受けている地域でさえ、その進行の遅さには驚かされる」と、資産運用会社ポイント72の欧州経済調査責任者、ゼーレン・ラッド氏は言う。「賃金上昇は正常化する可能性が高いと思うが、それがECBの予想よりも長く時間がかかることを私は恐れている」と同氏は述べた。
ECBは今年を通じて失業率が上昇し、賃金上昇率は2023年の5.3%から26年には3.3%へと徐々に緩やかになると予想している。苦境にあえぐドイツの製造業のように、経済の一角に減速の兆しが見えるところもある。しかし、不確実性は高い。
ECBが年明け最初の2回(1月25日と3月7日)の会合では静観し、4月に最初の利下げをする確率が3分の2だと市場はみている。
ドイツで主要な賃金交渉が行われるのは2024年下期だが、最近の交渉は上昇圧力が続いていることを示している。鉄鋼業界と公的セクターの2025年の賃金上昇率は5%余りとなる見通しで、建設・農業・環境産業労組(IGBAU)によると、建設労働者は大多数の最低賃金労働者で21%の賃上げを求めている。
ドイツ連邦銀行のナーゲル総裁は、来年の賃金上昇率を3%程度と予測しているが、賃金を「大きな不確定要素」と呼んでいる。
ダボスで語るラガルドECB総裁
Source: Bloomberg
ECBは、域内各国中銀からの情報を基にした「賃金トラッカー」など、無数の指標に頼っている。求人情報サイト「インディード」による指標も注目されるようになった。
これらの指標が急速に悪化しない限り「タカ派が自分たちの路線を維持するのは非常に簡単だ。正式な1-3月(第1四半期)賃金データが必要だが、これは4月の会合前には入手できない」とラッド氏が述べた。
ECBチーフエコノミストのレーン理事によれば、欧州連合(EU)統計局(ユーロスタット)からの確実な数字は4月末にしか得られない。政策委員会がこの数字に注目するのであれば、6月の政策決定会合が利下げ可能性のある最初の機会となる。
春に利下げが行われると予想しているアナリストもこれを認めている。
UBSのエコノミスト、フェリックス・ヒュフナー氏(フランクフルト在勤)は「4月が基本線だと考えているが、ECBには少し勇気が必要だとも思う。ECBは4月会合時にすべてのデータ、特に賃金に関するデータを持っているわけではない」と話した。
ナーゲル独連銀総裁