概要:欧州証券市場監督局(ESMA)の最新データから見えてきたのは、「便利さ」と「リスク」が同時に膨らんでいる、現在のヨーロッパ投資市場の実像です。

ヨーロッパで投資をしている人たちの「お金の行き先」がいま、静かに、しかし大きく変化しています。国境を越えて海外の金融業者を利用する個人投資家が急増しており、その中心にいるのがキプロスの業者です。
一方で、その裏側では「思っていたサービスと違う」「説明が足りない」「トラブルになった」という不満の声も急増しています。ESMAのデータに基づき、急成長する市場の光と影を解説します。
2024年、EU域内で「他国の金融業者」を利用して投資を行う個人投資家は、およそ1050万人に達しました。前年の約800万人から、わずか1年で32%も増加しています。
ここでいう「国境を越える」とは、自分の居住国以外のEU加盟国に拠点を置く業者を通じて取引することを指します。例えば、ドイツのトレーダーが自国のアプリではなく、あえて遠く離れたキプロスやリトアニアの業者を選ぶといったケースが、もはや一般的になっていることを示しています。
この仕組みは「パスポート制度」と呼ばれ、EU内で認可を受けた業者は、原則として他の加盟国でもサービスを提供できます。利用者にとっては「選択肢が広がる」「手数料が安い業者を選べる」というメリットがある反面、監督の目が届きにくくなるという側面も持ち合わせています。
2024年に国境を越えてサービスを提供していた業者は370社で、前年の386社から4%減少しました。利用者が急増しているにもかかわらず業者の数が減っているということは、市場が「より少ない大手業者」に集中していることを意味します。
1社あたりの平均利用者数は約2万8000人と、前年の約2万人から大きく伸びました。選ばれる業者とそうでない業者の差が、はっきりと分かれ始めています。
国別に見ると、サービスの供給側には極めて大きな偏りが見られます。
この4か国だけで、全体の約86%を占めています。特にキプロスは、長年CFDやオンライン証券の拠点として発展してきた背景があり、EUにおける「投資の玄関口」とも言える存在になっています。
利用されている主な商品は以下の通りです。
株式が中心である一方、ハイリスク・ハイリターン型の商品も一定の割合を占めています。特に初心者が「手軽に少額で始められる」と感じやすいCFDや暗号資産は、トラブルの要因になりやすい分野でもあります。
一方で、サービスを利用している側の国を見ると、こちらも特定の国に集中しています。
特にドイツは約162万人が外国業者を利用しており、前年に続き高い水準を維持しています。
そして、最も注視すべきは「苦情」の増加です。2024年、国境を越えた取引に関する苦情は1万0968件に達し、前年の7507件から46%も増加しました。
利用者数の増加を考慮した「10万人あたりの苦情件数」で見ると、94件から104件(約9.6%増)の伸びに留まってはいますが、絶対数として確実に増えていることは否定できません。
業者の所在地別に見ると、苦情の割合は以下のようになっています。
また、利用者側の居住国で見ると、オーストリア、スペイン、イタリアの3か国で全体の約46%を占めています。特にオーストリアは、約24万8000人の利用者に対し1909件の苦情が寄せられており、100万人あたりの件数はEU平均の6倍以上という突出した水準です。
ESMAは、「苦情とは利用者の不満表明であり、国や業者ごとに定義が異なる可能性がある」と注意を促しています。つまり、すべてが重大な違反やトラブルとは限りません。
それでも、苦情件数が急増しているという事実自体が、市場の変化を告げる重要なサインです。利用者が増え、商品が複雑化し、業者が巨大化する中で、説明不足や期待とのズレが生じやすくなっているのは間違いありません。
国境を越えた投資は、選択肢を広げ、競争を促し、コストを下げるメリットがあります。しかし同時に、「いざという時に誰が守ってくれるのか」というガバナンスの問題を孕んでいます。トラブルが起きた際、言語も制度も異なる外国の業者と交渉しなければならないという現実があります。
ESMAはこの事態を重く見ており、2026年にはさらに詳細な調査を実施し、業者の振る舞いや特定の商品におけるリスクの集中を徹底的に監視する方針です。
「投資は自己責任」という言葉が、これまで以上に重みを持つ時代を迎えています。


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