概要:28日の米金融市場では米国債が続伸。ドルは売られる一方、米国株も上昇した。米金融当局は利上げを終えており、来年は金融緩和に転じることができるとの観測が高まった。
ウォラー理事のハト派発言を好感し米2年債利回りは約15bp低下
円は主要通貨で好調際立つ、ユーロは対ドルで1.10ドル台に上昇
28日の米金融市場では米国債が続伸。ドルは売られる一方、米国株も上昇した。米金融当局は利上げを終えており、来年は金融緩和に転じることができるとの観測が高まった。
国債 | 直近値 | 前営業日比(bp) | 変化率 |
---|---|---|---|
米30年債利回り | 4.51% | -3.1 | -0.68% |
米10年債利回り | 4.32% | -6.2 | -1.42% |
米2年債利回り | 4.74% | -15.0 | -3.06% |
米東部時間 | 16時48分 |
米国債利回りが大きく低下する中、スワップ市場は来年末までに100ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)余りの利下げを織り込んだ。米連邦準備制度理事会(FRB)内でも最もタカ派と目されるウォラー理事は「経済を減速させ、インフレ率を2%に戻す上で政策が現在、好位置にあるとの確信を私は強めている」との認識を表明。一方、ボウマン理事は不確実性が多いと認めながらも、利上げが差し迫っていることを示唆する発言は控えた。
ウォラーFRB理事、金融政策が好位置にあるとの確信強めている (1)
ボウマン理事、インフレ進展停滞なら利上げが望ましいと表明 (1)
22Vリサーチのピーター・ウィリアムズ氏はウォラー理事の講演について、米利上げ終了の根拠を幅広く説明したと指摘。米金融当局の引き締め政策がリセッション(景気後退)を招く公算は小さくなっているにもかかわらず、ハト派的なピボットやリセットの可能性はむしろ高まっているようだと述べた。
シティー・インデックスのマーケットアナリスト、ファワド・ラザクザダ氏は、米連邦公開市場委員会(FOMC)の次回の政策変更は利下げになる可能性が高いとし、「市場はパウエル議長や他の中央銀行総裁がインフレとの闘いで勝利宣言する前から、利下げを織り込もうとしている」と指摘。「少し先走り過ぎているが、まずは足元の勢いに乗ることを優先し、質問は後回しだろう」と話した。
米2年債利回りは約15ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)低下の4.74%をつけた。ウォラー理事のハト派的な発言を好感し、短中期債の利回りが低下した。さえない7年債入札の結果を受けて失速する場面もあったが、債券高の流れが途切れることはなかった。先物市場で行われた2年債と5年債のブロック取引が支援し、終盤の取引では年限2年-5年の債券利回りがこの日の低水準をつけた。
米財務省が実施した390億ドルの7年債入札は、最高落札利回りが4.399%と、入札前取引(WI)水準の4.378%を上回った。応札倍率は2.44倍で、過去6回の入札の平均である2.60倍を下回った。
米国株
米国株式市場は反発。S&P500種株価指数はプラス圏とマイナス圏を行き来する展開となったが、小幅高で終えた。同指数は「買われ過ぎ」の水準付近で取引されているが、このまま行けば11月としては過去最大の上げを記録する勢いだ。
株式 | 終値 | 前営業日比 | 変化率 |
---|---|---|---|
S&P500種株価指数 | 4554.89 | 4.46 | 0.10% |
ダウ工業株30種平均 | 35416.98 | 83.51 | 0.24% |
ナスダック総合指数 | 14281.76 | 40.74 | 0.29% |
この日は米金融当局者の発言が相次いだ。シカゴ連銀のグールズビー総裁は「2023年はインフレ率の低下が過去71年で最大となる軌道にある」と指摘。ニューヨーク連銀のウィリアムズ総裁はこうしたインフレ鈍化は心強いと述べた。
シカゴ連銀総裁、インフレは低下しているが目標にはまだ戻っていない
朝方発表された指標では、11月の米消費者信頼感指数は4カ月ぶりに上昇。労働市場の見通しを巡り、楽観的な見方が強まったことが寄与した。一方、 米国の住宅価格は8カ月連続で上昇し、過去最高を更新した。
米消費者信頼感指数、11月は4カ月ぶりに上昇-期待指数が改善 (2)
全米の住宅価格指数、9月は過去最高を更新-8カ月連続で上昇 (1)
ニューヨーク・ライフ・インベストメンツのエコノミスト兼ポートフォリオストラテジスト、ローレン・グッドウィン氏によれば、投資家にとっての朗報は、景気後退がまだ到来していないため、年末ラリーが実現する可能性が高いことだ。過去の景気サイクルにおいては、失業保険申請件数の増加や企業収益の減少といった景気後退がすでに訪れている兆しが表面化するまで、市場は景気後退を織り込まない傾向があるという。
「インフレと雇用の伸びが緩やかに減速することは、現在のような株式、債券、クレジットの上昇を伴う『FRBのリリーフラリー(安心感による相場上昇)』が持続し得ることを意味する」と話すグッドウィン氏。ただ、まさにインフレが鈍化している理由、つまり経済成長や雇用の減速がデータに表れる前のゴルディロクスの瞬間であることは過去と変わらないとの考えを示した。
個別銘柄では、メモリーチップメーカー米最大手のマイクロン・テクノロジーが安い。売上高見通しを小幅上方修正した一方で、営業費用の見通しを大幅に引き上げたことが嫌気された。
マイクロン株が2カ月ぶり大幅安、9-11月の新たな業績見通し発表後
講演するウォラー理事
Source: Bloomberg
為替
ニューヨーク外国為替市場で、円は対ドルで上昇。全般的にドル売りが継続する中、ユーロは8月以来の高値に上昇する一方、円は主要通貨で値上がりが際立った。
為替 | 直近値 | 前営業日比 | 変化率 |
---|---|---|---|
ブルームバーグ・ドル指数 | 1232.31 | -5.07 | -0.41% |
ドル/円 | ¥147.47 | -¥1.22 | -0.82% |
ユーロ/ドル | $1.0993 | $0.0039 | 0.36% |
米東部時間 | 16時49分 |
ドイツ銀行のチーフ・インターナショナル・ストラテジスト、アラン・ラスキン氏はウォラー理事の発言について「市場はウォラー理事が来年前半の利下げに対して想定以上に前向きだと受け止めた」と指摘。「ウォラー理事がハト派との受け止めは、重要なタカ派当局者がそこまでタカ派ではなくなったことも意味する」と述べた。
円は一時、0.9%高の147円33銭まで買われた。
トロント・ドミニオン(TD)銀行の為替戦略責任者、マーク・マコーミック氏はさらなる円高・ドル安の展開を予想。来年第1四半期(1-3月)末までに1ドル=140円に達するとみている。
ユーロは一時、対ドルで0.5%高の1ユーロ=1.1009ドルまで買われた。
ユーロが1.10ドルに上昇、8月以来-ドルの下落トレンド継続 (1)
ソシエテ・ジェネラルのストラテジスト、キット・ジャックス氏は月末の資金フローが支援し、1.10ドル台まで上げが加速したと指摘。「ただ、再び失速して1.0950ドルまで戻っても驚かない」と述べた。
原油
ニューヨーク原油先物相場は反発。石油輸出国機構(OPEC)と非加盟産油国で構成する「OPECプラス」が生産水準を巡る交渉を続けていることや、ウォラーFRB理事が米利上げサイクル完了の可能性を示唆したことが好感された。
OPECプラスはアフリカの一部参加国の生産枠を巡る行き詰まりを解消すべく取り組んでいる。こうした膠着(こうちゃく)状態は30日に予定されている会合までに解決されない可能性があり、既に延期を強いられている会合のさらなる延期が必要となる可能性もあると、参加国代表の1人は述べた。
原油先物は30日のOPECプラス会合を控え、おおむね待機状態に陥っており、トレーダーらは来年の生産水準に関する決定を待っている。
原油価格は取引終了前のほぼ2時間に水準を約50セント切り下げた。みずほセキュリティーズUSAのエネルギー先物部門ディレクター、ボブ・ヨーガー氏は「誰もポジションを抱えたまま帰宅したくない」と指摘。こうした動きは、サウジアラビアが当初の予想通り減産を延長するかどうかを巡りトレーダーらの不透明感が続いていることを示していると、付け加えた。
ニューヨーク商業取引所(NYMEX)のウェスト・テキサス・インターミディエート(WTI)先物1月限は前日比1.55ドル(2.1%)高の1バレル=76.41ドル。ロンドンICEの北海ブレント1月限は1.70ドル(2.1%)高の81.68ドルで終了した。
金
金スポット相場は続伸し、5月以来の高値となった。米金融当局者の発言を受けて来年の米利下げ開始観測が高まったことから、買いが優勢になった。
こうした米金融当局の次のステップに関する見通しを背景に、ヘッジファンドによる金のネットロングのポジションはほぼ4カ月ぶりの高水準となっていることが、米商品先物取引委員会(CFTC)の最新データでは示されている。
スポット価格は一時1.4%高の1オンス=2043.04ドル。ニューヨーク商品取引所(COMEX)の金先物2月限は27.20ドル(1.3%)高の2060.20ドルで引けた。