概要:14日に発表される欧州中央銀行(ECB)の最新の経済見通しとそれに伴うラガルド総裁のメッセージに市場は注目するだろう。同総裁は投資家の間で高まる2024年の利下げ観測をどの程度押し戻すか思案中に違いない。
14日に発表される欧州中央銀行(ECB)の最新の経済見通しとそれに伴うラガルド総裁のメッセージに市場は注目するだろう。同総裁は投資家の間で高まる2024年の利下げ観測をどの程度押し戻すか思案中に違いない。
インフレ率が急速に低下し経済は低迷、タカ派的な当局者が姿勢を転換したことで、トレーダーは早ければ来年3月にも利下げがあるとみている。24年末までには中銀預金金利が現在の4%が2.5%まで低下するとの予想も市場に織り込まれている。
ECB Is Working on Update to September Projections
Source: ECB
市場が正しければ、ECBは来年、主要中銀の中で最初に利下げに踏み切り、最も積極的な緩和サイクルを展開することになる。しかし、新たな予測では経済背景の変化と物価見通しの低下を認める必要があるにもかかわらず、当局者には行動を急ぐ様子はない。
当局が直面している苦境は、米連邦準備制度がタカ派姿勢に転換し、投資家がECBの利上げを予想し始めた21年12月を彷彿(ほうふつ)とさせる。当時の予測ではインフレ加速が見込まれていたが、利上げが開始されたのはその7カ月後となり、多くのオブザーバーはECBが出遅れたと判断した。
14日の決定を控え7日から発言自粛期間に入るラガルド氏らECB当局者は今、同じようなトレードオフを迫られている。尚早な利下げでインフレを再燃させるリスクか、抑制し過ぎで経済を失速させるリスクかに頭を悩ませているだろう。
アリアンツのシニア投資ストラテジスト、ビョエルン・グリースバッハ氏は、消費者物価上昇の危険はまだ多くの当局者の頭の中にあると考えている。「予測は非常に重要だ。一つはっきりしているのは、インフレ率の低下が必要だということだ。ECBはインフレ過小評価の過ちを再び犯すことを避けようと決意している」と同氏は指摘する。
ECB Has Aggressively Tightened Policy
Source: ECB
ラガルド総裁が14日に公表する予測の最終的な詰めを当局者らは行っている。
12月の予測は9月のものよりも包括的で、各国中銀の半年ごとの数字をまとめる作業が必要だ。また、今回の予測は初めて、26年までの見通しを含むものになる。
ECBは以前、来年のインフレ率は平均3.2%となり25年後半に2%の目標に戻ると予測していた。しかし11月の消費者物価指数上昇率が2.4%と21年半ば以来の低水準に鈍化したことで、前回の見通しはますます実情から懸け離れたものに見えつつある。
タカ派とされるシュナーベル理事は11月のインフレ低下について「驚くべきもの」だと述べ、追加利上げの可能性は低いと認めた。ビレロワドガロー・フランス中銀総裁は、24年に利下げの問題が浮上する可能性があると発言した。
ECB追加利上げ可能性低いとシュナーベル氏-利下げ観測強まる
ECB、2024年に利下げの問題を検討する可能性-仏中銀総裁
当局者らはインフレが再加速する可能性があるとも警告しているが、11月のデータとこれらの当局者コメントによって、投資家はより早い、より深い利下げを見込むようになった。
Source: Bloomberg Economics
6日にはドイツ銀行が来年の1.5ポイントの緩和を予想し、最初の利下げは6月ではなく4月になると見通しを変更した。ゴールドマン・サックス・グループは先週、早ければ来年4月に利下げがあると予想した。
ECB利下げ、ドイツ銀は来年4月に予想前倒し-従来は6月
ゴールドマン、ECB利下げ時期予想を前倒し-来年4~6月に
金利見通しの変化に伴う債券相場の上昇で、来週のラガルド総裁の発言の重要性がさらに増やすことになる。米国債を除いたソブリン債の指数は今週、22年4月以来の高水準に達した。
ウニクレディト・グループのチーフエコノミクスアドバイザー、エリック・ニールセン氏は市場の見方のシフトに共感しており、消費者物価の上昇が加速しても長続きはしないとみている。
ニールセン氏は「消費者物価の上昇が加速してもインフレ期待や賃金上昇を後押しすることはないだろう」とした上で、景気低迷は通常、雇用市場の軟化を伴うものであり、それはインフレを促進するものではないと主張した。
ECBセンテノ氏、欧州労働市場は急激な落ち込みも-景気低迷なら
ドイツ連邦銀行のナーゲル総裁のようなタカ派にとって、インフレが再燃する危険性は残っている。ベルギー中銀のウンシュ総裁は、十分に景気抑制的な政策を維持するために再利上げを行う可能性があるとさえ宣言した。
匿名で語った当局者らによれば、来年1-3月(第1四半期)が終わって賃金協定や財政計画の全容が明らかになるまで、全体像ははっきりしない。もう一つ複雑なのは、ECBがバランスシートの圧縮を加速させたい可能性があることだ。
いずれにせよ、ソシエテ・ジェネラルのアナトリー・アネンコフ氏のようなエコノミストは、利下げ観測が高まる中で投資家が油断しているリスクを警告する。
「インフレ率が急速に低下しているという事実に惑わされてはいけない。直線を引くのは危険だ。6カ月以内にアンダーシュートする見通しがうかがえる」という。
その脅威を警戒し、来週の会合で利下げに道を開く度合いが抑えられる可能性が高い。これまでのところ、当局者からの声はそれほど大きな変化を示していない。
ニールセン氏は「当局はいつ見解を変えるだろうか。恐らくマイナスになる第4四半期成長率が発表され、来年第1四半期もインフレ率が予想より素早く低下してまた経済が悪くなった時かもしれない。その時こそ、当局者らは赤面するだろう」との見解を示した。