概要:欧州の中央銀行総裁らは、利下げに向かう米国の姿勢転換に同調を急いでいない。金融緩和策をすぐに受け入れる必要が生じると投資家が主張し続けているにもかかわらずだ。
欧州の中央銀行総裁らは、利下げに向かう米国の姿勢転換に同調を急いでいない。金融緩和策をすぐに受け入れる必要が生じると投資家が主張し続けているにもかかわらずだ。
パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長が13日、利下げに注目する姿勢に転じていることを示唆した後、欧州中央銀行(ECB)やイングランド銀行(英中銀)の総裁らは、インフレのさらなる鈍化を当然と受け止めることはできないと表明。金融市場がどんな賭けに出ようとも、金融緩和は当面の課題ではないとの考えを示した。
ECBのラガルド総裁は記者団に「決して警戒を緩めてはならない」と語り、英中銀のベイリー総裁は、消費者物価抑制の闘いは「まだ道半ばだ」と述べた。
特に英中銀の金融政策委員会(MPC)では、追加利上げを委員9人中3人が支持し、引き締め策を堅持する意欲が示された。ノルウェーでは同国中銀が世界的なムードに逆らって利上げを実施した。
こうした動きにより2023年末の金融情勢は、欧州の引き締め終了が固まったとはいえ、21年の利上げ開始でユーロ圏に先んじたFRBが利下げも先導することに、欧州当局者が満足していることもうかがわれる。
INGのグローバルマクロ責任者、カルステン・ブルゼスキ氏はブルームバーグテレビジョンに対し、「ECBはFRBに後れを取っている。米国では循環的下降がさらに見られるようになり、FRBが来年利下げに踏み切ることができる」と指摘した。
パウエル議長、ラガルド総裁、ベイリー総裁の3氏のメッセージを踏まえ、トレーダーらはFRBが利下げで先行するとの見通しに見方を合わせ始めているが、投資家は欧州の利下げに依然として賭けている。
ECB総裁のフランクフルトでの会見
Source: Bloomberg
市場では、米金融当局が3月に利下げを実施する可能性はECBよりはるかに大きいと受け止められており、ECBは4月に緩和に着手すると予想されている。米金融当局とECBは来年、少なくとも計1.5ポイントの緩和を実施すると見られており、これは0.25ポイント利下げで6回分に相当する。
米連邦公開市場委員会(FOMC)の四半期経済予測で示された24年の利下げ幅は0.75ポイントと、前回9月の予測より大幅だったことから、より大幅な金融緩和が市場に織り込まれた。
RBCブルーベイ・アセット・マネジメントのマーク・ダウディング最高投資責任者(CIO)は、「当面は、重みがあるのはパウエルFRB議長の言葉だけだ」と語った。
欧州の中銀は、米金融当局ほど姿勢をシフトする構えはなかったものの、やがてそうした状況に直面するだろう。
ラガルド総裁は消費者物価に関する懸念を後退させ、インフレ率が「より平たん」になるとの見通しを提示。新型コロナウイルス禍の影響を緩和するために導入したパンデミック緊急購入プログラム(PEPP)の下で購入した債券については、保有を減少させる方針を表明。緩和への道が開かれる可能性がある。
同総裁は政策委員会で「利下げについては全く議論しなかった」と述べたが、事情に詳しい関係者によれば、政策当局者らは金融市場が現在見込んでいるよりも利下げは後になるだろうとの見方でほぼ一致している。
MUFGの通貨ストラテジスト、リー・ハードマン氏は「市場参加者は当然ながら、ECBが比較的タカ派寄りのスタンスを長く維持できるのかまだ懐疑的だ」と指摘。「ECBが現在の景気抑制的な金利水準を長く維持すればするほど、ユーロ圏経済を疲弊させる可能性が高まる」と予想した。