概要:ソフトウエア企業はこの10年の大半の期間、できる限り速く成長することだけに照準を定めてきた。だが2023年に潮目は変わった。利益と営業利益率が業界の標語になった。
ソフトウエア企業はこの10年の大半の期間、できる限り速く成長することだけに照準を定めてきた。だが2023年に潮目は変わった。利益と営業利益率が業界の標語になった。
金利が上昇し、企業のテクノロジー予算が削られる中で、コンピューター用アプリケーションソフト販売が拡大のとめどない源泉のようにはさほど見えなくなり始めた。金融危機以来、ソフトウエア業界はあらゆる犠牲を払っても成長するという考え方にとらわれてきたが、投資家はこうした見方に嫌気が差した。
経営陣は従業員解雇や労働力の海外シフトのほか、福利厚生縮小、オフィス閉鎖、投機的なプロジェクト中止、自社のソフトウエア予算精査などで応じた。大まかに言えば、豊かさの文化を倹約の文化に置き換えようとした。
決算報告の電話会見や企業イベント、他のプレゼンテーションの記録に関するブルームバーグの分析によると、ソフトウエア企業幹部と米証券アナリストが23年に利益に言及した回数は19年の2倍強に達した。一方、「成長」と「収入」はその半分に満たない伸びにとどまった。
バロニス・システムズのガイ・メラメド最高財務責任者(CFO)は「今の新たなトレンドは、営業利益率について語ることだ」と、5月の決算会見で述べている。
赤字企業にとってプレッシャーは大きかった。コミュニケーションソフトウエアの米トゥイリオは3回の人員削減に加え、書籍手当などの従業員特典を削減した。同社は今年、調整後1株損益が初の大幅黒字になる見込みだ。
スノーフレイクやオクタ、ニュータニックスなども、23年に年間として初の大幅利益を計上したか、計上する見込みだ。ボックスも営業利益率が初めてプラスになった。
最も劇的な変化を遂げたのは、業界の指標とされることが多いセールスフォースだ。売り上げ鈍化を受け、アクティビスト(物言う株主)らは、評価額が約1500億ドル(約21兆2000億円)だった同社に対し、スタートアップ企業のような現金燃焼をやめ、アドビやオラクルの水準に利益率を引き上げるよう求めた。
サンフランシスコで開催される会議「ドリームフォース」といった目立つマーケティングが、セールスフォースの過剰支出の要因との見方が多かった。実際は、膨大な数の営業担当者に対する報酬が最大の問題だった。
同社は過去最大規模の人員削減に加え、自社製品を束ねてアマゾン・ドット・コムのクラウド部門アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)など新たな経路や、手数料が低いセルフサービスのサイトでの販売に取り組んできた。
こうした変化を受け、多くの企業でそれまで軽視されてきた利益率が向上した。RBCキャピタル・マーケッツのアナリスト、リシ・ジャルリア氏によると、利益拡大や生成人工知能(AI)人気などに伴い、業界の一般的指標であるiシェアーズのソフトウエア上場投資信託(ETF)は今年約60%上昇している。