概要:羽田空港の滑走路上で海上保安庁の航空機と2日に衝突し、炎上した日本航空(JAL)のエアバスA350-900は、炭素繊維複合材を主に使った表面構造を有する民間航空機としては初めて火災で失われた。このため、調査官や航空機の設計者はストレスや異常な高熱に対する炭素複合材の反応を巡って、極めて重要な情報を収集する機会を得る。
羽田空港の滑走路上で海上保安庁の航空機と2日に衝突し、炎上した日本航空(JAL)のエアバスA350-900は、炭素繊維複合材を主に使った表面構造を有する民間航空機としては初めて火災で失われた。このため、調査官や航空機の設計者はストレスや異常な高熱に対する炭素複合材の反応を巡って、極めて重要な情報を収集する機会を得る。
海保機と衝突した日航機からはすぐに炎が上がったが、乗客367人と乗員12人は全員機外に脱出した。その後6時間にわたり、日航機は燃え続け、翼部分以外は黒焦げの残骸と化した。
日航機と海保機の衝突、原因は何か
1.A350は従来の航空機とどう違うのか
エアバスと同業の米ボーイングは、従来のアルミニウムに比べて大幅に軽い炭素複合材を使用したジェット機を開発。これにより燃料を節約し、二酸化炭素排出量を減らすことができる。A350はエアバスにとって初めての炭素複合材を主に使った航空機で、ボーイングにとっては787ドリームライナーが初となる。
これらの航空機は、微細な炭素繊維を樹脂で固めた炭素繊維複合材料を使用して製造されている。エアバスは、炭素繊維複合材料が金属よりも強度重量比に優れ、疲労や腐食の影響を受けにくく、メンテナンスも少なくて済むと説明している。同社によれば、A350の構成は53%が炭素複合材となっている。チタンなどの軽金属と共に、こうした複合材は旧世代の航空機に比べて燃料消費を25%削減するのに役立っている。
2.A350は衝突にどう反応したのか
滑走路34Rで海保機と衝突した後、前方の着陸装置が破損し、機首がへこんだ日航機は滑るようにして止まった。それ以外はおおむね無傷にも見えたが、燃料補給後の海保機に衝突した日航機はケロシンに覆われ、機体が燃えることはほぼ避けられなかった。着陸からわずかな時間で、8カ所ある非常口のうち3つだけを使って全員が航空機から降りた。それから間もなく炎は機体全体を包み込み、その後数時間でほぼ全焼した。一方、滑走路に進入するはずがなかった海保機は大破し、搭乗していた6人のうち5人が死亡した。
3.航空機事故における炭素複合材の長所と短所とは
インペリアル・カレッジ・ロンドンで複合材料を専門とするエミール・グリーンハルジ教授によれば、炭素複合材は火にさらされると、その化学構造のため炭化し、燃え広がるのを防ぐ。その抵抗性から炭素複合材は金属よりも安全だと考えられているという。しかし、損傷が生じた場合、炭素複合材は修復が難しいため、困難が伴うこともある。グリーンハルジ氏は滑走路の破片、バードストライク、落とした工具でさえも複合構造に損傷を与える可能性があると指摘。炭素複合材に関する研究は現在、同素材を使ってさまざまな形態のダメージにどう対処するかが中心になっていると述べた。
4.今回の事故から研究者は何を学ぶのか
専門家らは今後、A350の構造が当初の衝撃とそれに伴う火災被害でどのような影響を受けたかを調査する。「工学は失敗から学ぶものだが、今回は全員が脱出できたので成功だった」とグリーンハルジ教授は話す。航空機の火災は業界では常に懸念材料であり、メーカーはモデルを動かし、緩和策を講じることで対応しているとも同教授は述べた。
エチオピア航空グループが運航していたボーイング787ドリームライナーが2013年に機体後部の上部分で火災に見舞われ、機体の天井を燃やして基礎構造が露出した。同機はその後改修され、再び運航された。