概要:インフレ高進と急速な利上げで再び生じた大きな変動や混乱はボラティリティーを好む投資の専門家に歓迎されたが、あらゆる種類のクオンツに恩恵をもたらしたわけではない。
株式のロングショート・ファクター戦略、2023年は大半が損失
クレジットのクオンツファクター、現金同等資産のリターンを下回る
インフレ高進と急速な利上げで再び生じた大きな変動や混乱はボラティリティーを好む投資の専門家に歓迎されたが、あらゆる種類のクオンツに恩恵をもたらしたわけではない。
クレジットや株式への投資で安定した利益を上げることを目指し、割安感や上昇スピードなどの特徴に基づいてロングやショートのポジションを組むファクター戦略は、2023年に大敗した。
インフレと人工知能(AI)ブームによって資産が打撃を受ける中、ブルームバーグが追跡した12種類のロングショート・ファクターのうち10種類が株式で損失を出した。ゴールドマン・サックス・グループのデータによると、クレジットにおける4つの主要なマーケットニュートラル戦略は全て、現金同等資産よりも低いリターンにとどまった。
無リスクの金利すら上回れなかったことは、ウォール街のポートフォリオマネジャーにとっては大きな屈辱だ。連邦準備制度の積極的な金融引き締めが最も期間の短い利回りを5%余りに押し上げ、そのハードルを高くした。
ゴールドマンの主任クレジットストラテジスト、ロトフィ・カルイ氏は「突然、現金が債券はもちろんリスク資産にすら対抗できる選択肢として台頭した。基本的に、システマティック戦略がアウトパフォームするにはハードルが高過ぎた」とインタビューで語った。
もちろん、困難はクオンツだけのものではない。ヘッジファンドはプラスの金利が戻ってきたことによる機会を喧伝(けんでん)するが、これは同時に、あらゆる種類のヘッジファンドにとって手数料や制限的な取引条件を正当化するための基準が厳しくなることを意味する。
インフレ鈍化で現金同等資産の金利はここ数カ月低下しているが、それでもまだ昨年10月に付けた22年ぶりの高水準に近い。こうした背景から、投資家がより高いリターンと成績連動報酬を受け取る条件の引き上げを求める兆しが見え始めている。
投資家の自問
ヘッジファンド調査会社ピボタルパスのジョン・カプリス最高経営責任者(CEO)によれば、年金基金などの機関投資家は通常、財務省短期証券(TB)またはロンドン銀行間取引金利(LIBOR)に3ポイント上乗せしたリターンを目標にヘッジファンドに投資している。これは現在、年率約8%に相当する。
ソシエテ・ジェネラルが追跡している10大クロスアセット・リスクプレミア・ヘッジファンドの23年リターンは6%。ピボタルパスのインデックスでは、株式ヘッジファンドは全体で7%だった。
「投資家は撤退を望んでいる様子ではない。しかし、多くの投資家が『現金同等資産以上のリターンが出せないのなら、自分はいったい何をしているのだろう』と自問し始めている」とカプリス氏は述べた。
AIが主導した昨年の熱狂の中で大型テクノロジー株が優位に立ったことで、ファクター投資家の苦戦はさらに深刻化した。ブルームバーグGSAM米国株マルチファクター指数は昨年4.5%下落し、07年の算出開始以降で最悪のパフォーマンスとなった。
一方クレジットでは、ゴールドマンが追いかけている全てのクオンツファクターが現金資産のリターンを下回ったのは、少なくとも12年以来のことだ。
カルイ氏によると、一時は投資適格債の約60%が利回りで現金資産を下回り、大きなリターンを上げることが難しかったという。さらに問題を複雑にしているのは、市場のシナリオが突然変化し、不況とソフトランディングの間で焦点が切り替わったことだ。
「23年にはボラティリティーに関して多くのエピソードがあった。ファクター投資家にとって、煙幕のように働いた」と同氏は振り返った。
中でも、先物市場でのロングやショートを通じて資産価格の勢いを追う商品投資顧問業者(CTA)として知られるクオンツは大きな痛手を被った。ブルームバーグのCTA指数は昨年6.8%下落した。
ハードルレート
金利上昇の時代は一部のシステマティック戦略や運用者にとっては好都合だった。金利差から利益を得るキャリートレードは、借り入れコストと共にスプレッドが拡大したため、リターンが向上した。大手ハイテク株の急騰はグロースファクターのリターンを後押しした。
クオンツ大手のAQRキャピタル・マネジメントは、さまざまな取引を組み合わせたアブソルートリターン戦略で23年にプラス18.5%の素晴らしい成績を記録。イジー・イングランダー氏のミレニアム・マネジメントは約10%、DEショーが運用する最大のヘッジファンドは10%弱のリターンを上げた。
とはいえ、現金資産のリターンが上昇するにつれ、投資家の期待も高まっている。BNPパリバが昨年10月に発表した調査によると、投資家はヘッジファンド投資の年間リターン目標を、前回調査の6.85%から9.75%に引き上げた。約90%の投資家が、ハードルレート(運用会社が運用報酬を徴収する前に越えなければならないリターンの最低要件)は無リスク金利または関連ベンチマークを下限とするべきだと回答している。
ヘッジファンドへの資金配分について顧客にアドバイスし、ニッチ戦略のマルチマネジャー・ファンドを運営するイーグルズ・ビュー・キャピタル・マネジメントは、低金利時代の約8%に対して現在は2桁のリターンを追求している。
創業者のニール・バーガー氏は「結局のところ、投資家を引き付け引き留めるためには、誰もが無リスク金利以上を稼がなければならない」と話した。