概要:米国の大手銀行は2023年、市場金利の上昇により預金顧客をつなぎ留めるコストが膨らみ、その対応に追われた。今後数カ月で借り入れコストが安定すると予想されるため、こうした負担は軽減される公算が大きい。
米国の大手銀行は2023年、市場金利の上昇により預金顧客をつなぎ留めるコストが膨らみ、その対応に追われた。今後数カ月で借り入れコストが安定すると予想されるため、こうした負担は軽減される公算が大きい。
バンク・オブ・アメリカ(BofA)、JPモルガン・チェース、シティグループ、ウェルズ・ファーゴの4行が12日に発表する23年10-12月(第4四半期)決算では、純金利マージンが資金調達コストの上昇により引き続き圧迫されたことが示される見込みだ。
だが、投資家はそれよりも、24年に米連邦準備制度がどのように動くかについての各行の予測の方に注目するだろう。
RBCキャピタルのアナリスト、ジェラード・キャシディ氏はインタビューで、「注目はヘッドラインの数字に集中し、その後は全て飛ばして、誰もがすぐに予測のページに向かうことになる」と語った。
10-12月期は、資金調達コストの上昇を反映し純金利収入と純金利マージンが引き続き圧迫された可能性が高いが、変化率はそれまでの四半期よりも小さくなる見込みだと同氏は予想。全体的な資金調達コストは、24年により安定的に推移するだろうとも指摘した。
大手銀株は昨年、値下がり。KBW銀行株指数の年間下落率は4.8%だった。10-12月期の23%上昇がなければ、もっと大きな下げになっていた。
12日から始まる米銀決算の注目点は以下の通り。
金利の変化
銀行のバランスシートは金利上昇にもかかわらず底堅く推移しており、注目される純金利収入についてはほとんどの銀行が通期ガイダンスを引き上げている。しかし、消費者金融と商業貸し付けは減速しており、10-12月期にはさらに減少したもよう。
JPモルガンのアナリストは、資金流入が増加しているマネー・マーケット・ファンド(MMF)との預金獲得競争は依然として激しいと予想。ただ、銀行はコスト削減によって収入圧迫を打ち消しつつあるとの見方も示した。
アナリストは米大手4行の純金利収入が約2%増加すると予想している。これには昨年5月にJPモルガンが発表したファースト・リパブリック・バンク買収による効果も含まれている。
経費削減とリストラ費用
手数料収入の減少を受け、複数の大手行が人員数の抑制を中心としたコスト削減策を発表した。
シティはジェーン・フレーザー最高経営責任者(CEO)の下、業務の見直しを行い、大がかりな措置を講じた。同行はリストラに伴う費用が10-12月期に数億ドルに達する可能性があると明らかにしている。
また、4行全てが連邦預金保険公社(FDIC)への支払いを計上する計画で、総額は数十億ドルに上るとみられている。FDICへの拠出金に関する特別査定は、昨年のシリコンバレー銀行とシグネチャー・バンクの破綻で発生した費用を補填(ほてん)する上で必要になった。
ゴールドマン・サックス・グループのアナリストはリポートで、大規模行の場合、1株当たり利益に年間6%の一時的な打撃を与えることになると推計している。
規制
米規制当局が今後数年間に大手銀行に課す予定の新たな自己資本規制、いわゆる「バーゼル3最終化」について、銀行幹部は当局案に反対の立場を表明している。
新たな要件にどのように対処する計画なのか、規制案が変更されると考えているのか、変更されない場合の自己資本比率への潜在的な影響をどのようにみているのかについて、経営幹部からのコメントに投資家は耳を傾けることになるだろう。
シティのマーク・メイソン最高財務責任者(CFO)は先月の会議で、新規則は「プライシングの考え方や、ポジションに必要な担保の考え方、異なるタイプのビジネスにどの程度参入したいかという考え方に影響を与える可能性がある」と述べた。
アナリストの中には当局の提案がそのまま実施される可能性は低いとの見方もある。
信用の質
10-12月期の決算発表を前にして、最大の未知数の一つは信用の質だ。RBCのキャシディ氏は「今後は信用の質悪化がより重要な論点となり、金利への注目度は下がるだろう」と述べている。
モルガン・スタンレーのアナリストによると、商業用不動産は圧力にさらされており、今後6-9カ月に悪化が予想されるため、注意深く見守る必要がある。融資債権の質劣化が続けば、このセクターに大きなエクスポージャーを持つ銀行は影響を受けることになる。