概要:債券トレーダーは米国債利回りが自分たちが知っているような状態に戻ろうとしているとの確信を深めつつある。
パシフィック・インベストメント・マネジメント(PIMCO)の共同創業者、ビル・グロース氏や債券市場のボラティリティーを示すMOVE指数を考案したハーリー・バスマン氏を含む投資家は、逆イールドが近く終わると予想している。議論の対象となっているのは、何がこの転換を引き起こすのかだ。
アルファシンプレックス・グループの主任リサーチストラテジスト、キャスリン・カミンスキー氏は16日のブルームバーグラジオで「ショートエンドでの利下げなのか、それとも利下げが遅れ予想に反して長期債が値下がりしてロングエンドからスティープ化するのか、どちらだろうか」と語った。
スティープニングがどのように展開するかの鍵は、米連邦準備制度の利下げタイミングだ。金融当局が昨年終わりに緩和へのシフトを示唆した後、投資家は利下げ観測を強め、政策金利の動きに敏感な2年債が買われた。利回りは今月初めに昨年5月以来の低水準に達し、30年債の利回りを下回った。
その後、米国の経済データが引き続き底堅さを示していることや、利下げに踏み切る前にインフレの沈静化を確認したいと当局者が強調したことで、利下げ観測はやや後退した。先週には今年の1.7%ポイント利下げが想定されていたが、現在は1.4%ポイント程度が織り込まれている。3月の利下げはほぼ織り込み済みだったが、現在は確率は半々に近い。
Markets Ratchet Back Rate-Cut Bets
Investors have trimmed expectations for Fed easing, based on trading in swaps
Source: Bloomberg
2年債利回りはシンガポール時間19日午前の時点で30年債利回りをわずかに上回る水準だが、10年債よりはまだ約0.2ポイント高い。
スティープニングのペースが速まり、短期金利が長期金利を決定的に下回るには、当局が利下げせざるを得ないほど経済が悪化しているという説得力のある証拠が必要だ。しかし現在の予測はむしろ、インフレ鈍化と成長減速に起因する緩やかな緩和サイクルを示唆している。連邦準備制度当局者らは、今年の0.75ポイント利下げしか想定していない。
国際通貨基金(IMF)金融資本市場局のトビアス・エイドリアン局長は「通常であれば、景気後退が近づけば短期金利が急激に低下し、それによって逆イールドが解消される。しかし現在、米国はソフトランディングする可能性が高い」と述べた。
もちろん、状況は急速に変化する可能性がある。バンガードの金利担当グローバル責任者、ロジャー・ハラム氏は、カーブがスティープ化するきっかけとして二つの可能性があるとみている。「一つは景気後退や金融事故によって当局が予想以上に迅速かつ大幅な緩和を行うことだ」と述べた。この場合はカーブ全体の利回りが低下し、短期利回りがその低下を主導する。
より問題なのは、米財政赤字急増で米財務省の資金調達に懸念が生じた昨年の一時期のように長期債の利回りが上昇するケースだ。「米国の財政赤字問題は依然として非常に深刻だ」とハラム氏は指摘。「インフレが本格的に収束する前に金融当局が緩和し、市場が長期の債券を保有するためのタームプレミアムを求めることが、利回り上昇の一因になるだろう」と話した。
ハッピースティープナー
アルファシンプレックスのカミンスキー氏は「誰もが望んでいるハッピースティープナーは、利下げによるスティープ化だ。それほどハッピーでないのは、長期利回りが上昇するスティープ化だ」と述べた。