概要:アメリカでは、クレジットカード競争法が成立すれば、スワイプ手数料(決算手数料)が引き下げられます。 大手航空会社は、これにより旅行特典プログラムを縮小あるいは完全廃止に追い込まれる可能性があると指摘しています。
アメリカのクレジットカード競争法により、航空会社のマイレージサービスや旅行特典プログラムが大きく変わるかもしれない。
アメリカでは、クレジットカード競争法が成立すれば、クレジットカードのスワイプ手数料(決算手数料)が引き下げられる。
大手航空会社は、この法案により旅行特典プログラムを縮小あるいは完全廃止に追い込まれる可能性があると指摘する。
アメリカのクレジットカードユーザーのおよそ40%が主要航空会社提携のクレジットカードを使っている。
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シドニーのオペラハウスが一望できる高級ホテルに滞在した際、ジェス・ボホルケス氏は1セントたりとも支払わなかった。
「ポインツ・バイ・ジェイ(Points By J)」というプラットフォームを通じて格安で旅行する方法を発信しているインフルエンサーのボホルケス氏は、クレジットカードのポイントを使って旅行のアップグレードを行ない、18万人のインスタグラムのフォロワーにも同じことをするように勧めている。
数年前にトラベルポイントを集め始めたボホルケス氏はBusiness Insiderに対して、利用しているチェース(Chase)のクレジットカードを通じて、フライトのアップグレード、無料でのホテル滞在、旅行保険などの特典を得てきたと語る。また、大半の空港では、プレミアムラウンジを使うこともできる。
「一度、ポイントと引き換えに無料で旅行すると、誰もが夢中になるはず」とボホルケス氏は語り、クレジットカードのルールを知っていれば、特典を得るのは簡単だと付け加えた。「ワクワクするよ」
しかし、そうした特典がなくなってしまうかもしれない。アメリカのクレジットカード市場は岐路に立たされている。クレジットカードのスワイプ手数料の額はどれぐらいが妥当か、誰が手数料を得るべきか、そしてそれらが消費者にどう影響すべきかなどの点で、政治家と企業のあいだで妥協点の探り合いが続いている。
連邦準備制度の発表によると、アメリカ人の10人に8人以上が支払いにクレジットカードを使い、キャッシュバックを得て、クレジットを構築している。そして彼らのおよそ40%が主要航空会社提携のクレジットカードを所有している。
一部の国会議員は、主要クレジットカード会社の力を抑え、手数料を引き下げることで、市場により多くの競争をもたらそうと考えている。しかし航空会社や旅行者は、それにより特典プログラムがなくなるのではと、危惧している。
主要航空会社の収益はカード会社に依存している
2023年6月に議会に提出されたクレジットカード競争法はクレジットカード市場により多くの競争をもたらすことを目的に、大手銀行に対して、米国クレジットカード取引の80%以上を支配するMastercardもしくはVisaを経由しないクレジットカード支払いネットワークを、少なくともひとつは利用するよう求めている。
顧客がクレジットカードを使うと、VisaとMastercardは現在のところ約3%の手数料を企業に請求する。クレジットカードを使う人が増えれば増えるほど、銀行とカード発行会社は儲かる。
そこに航空会社が目をつけた。
チケット販売と機内販売を通じて、航空会社は収益を得る。その際、チェース・サファイア・プレファード(Chase Sapphire Preferred)やデルタ・スカイマイルス(Delta SkyMiles)、あるいはユナイテッド・エクスプローラー・カード(United Explorer Card)のような提携クレジットカードが、銀行と航空会社の両方に大きな利益をもたらす。
航空会社が銀行に「ポイント」を売る。クレジットカード利用者は、提携カードを使って支払いを行ない、その額に応じてポイントをゲットする。銀行とクレジットカード会社はスワイプ手数料を徴収し、航空会社は実際に旅行者がポイントを使った場合にのみ、その分の代金だけを支払えばいい。また、旅行者が特定の航空会社を優先する可能性も高くなる。
イリノイ州選出の民主党ディック・ダービン上院議員がクレジットカード競争法のおもな推進者だ。Business Insider宛ての声明で、同法案がクレジットカード市場に不可欠な競争をもたらすだろうと述べている。
ダービン議員は、主要航空会社は「飛行機を飛ばすクレジットカード会社」になりつつあると危惧する。
「(航空会社は)ウォール街の大銀行を相手にした交渉のすえに手に入れた甘い取引でもたらされる何十億ドル(何千億円)という棚ぼた式の利益を、消費者や地元企業を犠牲にしてでも守ろうとしている」とも書いている。
ただし、同法案により旅行特典がなくなることはないだろう、とも付け加えた。
旅行者にとってのクレジットカードの魅力
通常、企業は商品の販売価格を引き上げることで、スワイプ手数料を補おうとする。したがって理屈としては、スワイプ手数料を下げて競合を増やせば、消費者価格が下がると考えられる。
つまりは値下げ、あるいは少なくとも価格の安定が期待できると、ナードウォレット(NerdWallet)は指摘する。
一方、ボホルケス氏はクレジットカードの競争が激化しても、実際には価格は下がらないと考えている。その代わりに、航空会社とクレジット会社は、マイレージサービスや詐欺防止サービスなどといったロイヤルティ特典を減らすと予想する。
主要航空会社は、クレジットカード競争法により特典プログラムが終了する可能性をすでに発表している。サウスウエスト航空はBusiness Insiderに対し、同法案に「強く反対する」と、声明を発表した。
同社は「同法案は誤った政策であり、何百万ものアメリカ国民が休暇旅行や個人旅行で必要としているクレジットカード特典プログラムを劣化させる、場合によっては完全に廃止に追い込むものである」と指摘した。
Business Insiderの取材要請に対し、ユナイテッド航空は米国航空産業を代表するロビー団体のエアラインズ・フォー・アメリカ(Airlines for America)に取材するよう示唆した。デルタ航空とアメリカン航空は、本稿執筆時点でまだBusiness Insiderに対して回答していない。
エアラインズ・フォー・アメリカはを通じて、各航空会社はクレジットカード競争法により、「最も忠誠な顧客に報いるための能力が損なわれ、特典プログラムの実行可能性が危険にさらされる」と考えていると発表した。
この競争法が実際に成立するかどうかは、まだわからない。同法案は7月に銀行・住宅・都市問題委員会に持ち込まれたが、まだ下院も上院も通過していない。同法案にまつわる動きが生じるまで、ボホルケス氏は特典を最大限に活用するつもりだ。
「すぐにポイントが消えるとは思っていない」とボホルケス氏は言う。「これからもクレジットカードのポイントをためて、たくさんの旅が無料でできることを望んでいる」